「維新政治」に終止符を打ち、
子どもの成長が大切にされる教育へ
小林裕和
大阪の「維新政治」には、他府県にはない「異質の危険」があります。それは、民主主義を壊す独裁政治を大阪に持ち込んでいることです。この独裁政治が一番ひどい形で猛威を振るっているのが教育の分野です。
子どもを異常な競争に駆り立てることで強いストレスがかかり、子どもの成長・発達を脅かしています。学校の「荒れ」が全国で突出しています。
「大阪の教育は10年以上後退させられた」、「大阪から教師がどんどん離れている」と、大阪の教育を危惧する悲鳴とも言える声が、教育関係者から上がっています。
「維新政治」が大阪の教育にもたらしたものは何か、また、今後の展望について、この間の論戦と運動を踏まえて問題提起します。
教育を破壊する「維新政治」
橋下・「維新」は安倍政権の「教育改革」(教育再生)を先取りして、首長が教育に介入できる「教育基本条例」を強行しました。この立場で、大阪の教育を破壊してきました。
(1)異常な競争と強制を大阪の教育に持ち込む
第一に、異常な競争と強制を大阪の教育に持ち込んだことです。
全国と府・市の学力テストで教育をゆがめる
大阪市は全国に先駆けて、小学6年生と中学3年生全員を対象とする全国学力テストの学校別結果公表を実施。大阪府も全国学力テスト対策を市町村に押し付けました。大阪府・市独自の学力テスト(府は中1・中2、市は中3対象)も実施し、競争教育に拍車をかけています。学校現場では新学期、新しい教科書を横に置いて、子どもに「過去問」をさせる実態もあると聞きます。
さらに大阪府は、全国学力調査の学校別平均正答率を公立高校入試の内申点に反映させる方針を決めました。全国学力調査は“生徒の成績評価を目的としない”ことが原則。文部科学省も“趣旨に反する”と指摘しました。全国学力調査の高校入試内申点への反映は許されません。根本にある全国と大阪府・市独自の学力テストは廃止すべきです。
大阪市では小中学校選択制の実施が強行され、統廃合が狙われています。
全国で最低レベルの35人学級
教育行政がやるべきは、子どもと学校に異常な競争を押し付けることではなく、教育条件を整備・拡充することです。ところが大阪では、橋下知事(当時)が2008年、小学校1・2年生の35人学級をやめると提案。府民と学校関係者の運動で、継続されましたが、こうした姿勢により35人学級が進まず、全国で最低レベルです。「先生がいない」学校の広がりも深刻です。
少人数学級・35人学級を小学校と中学校全学年に広げることが求められます。
府立高校・大阪市立高校7校廃校計画
大阪府は公立高校学区制を撤廃し、府立高校・大阪市立高校7校廃校計画を策定しました。保護者や生徒、卒業生らが強い反対の声をあげるなか、府立池田北高と咲洲高の募集停止(廃校)を強行しようとしています。また、府立西淀川高と能勢高を「再編整備」の対象とする方針案を決めました。
憲法が保障する子どもの学習権を奪い、“15の春”を泣かせる理不尽な廃校計画の押し付けは許されません。高校7校廃校計画の撤回、“3年連続定員割れの高校は再編整備する”府立学校条例の規定を廃止することが必要です。いまやるべきは、高校への35人学級を広げることなど教育条件を整備・拡充することです。
全日制高校の入学定員は、大阪全体として、進学を希望する生徒が高校教育を受けられるよう、公立と私立が協力・分担して、余裕をもって確保される必要があります。入学定員を満たすかどうかで高校を評価し、存廃の基準にすることは許されません。
大阪市立特別支援学校の府立への移管計画
大阪市立特別支援学校の府立への移管が強行されようとしています。府立への移管は学校関係者が望んだものではありません。住民投票で、大阪市を廃止する「大阪都」構想が否決されたいま、府立への移管計画を撤回し、学校関係者の願いに応えて教育条件の拡充と特別支援学校・学級の増設をはかるべきです。
私学経常費助成の削減
私立高校の授業料無償化は、子どもに高校教育を保障するうえで府民要求にもとづく重要な施策です。しかし、この施策が、私学経常費助成の国基準からの削減や、競争的な配分基準改悪とセットで行われたために、高校間の生徒獲得競争をあおり、一学級あたりの生徒数が増えるなど教育条件低下が危惧される学校も見られる事態です。
高校授業料無償化の拡充と、私学経常費助成の増額・改善が必要です。
また、さまざまな大阪の教育問題の背景にある、子どもの貧困問題に留意することが大切です。
府大・市大「統合」を強制
大阪府と市は、府大・市大「統合」を大学に強制しました。全国と大阪の子どもが大学で学ぶ機会を狭め、憲法が保障する学問の自由、大学自治を蹂躙するものです。
両大学はそれぞれ建学の精神と伝統をもち、独自の専門分野も発展しており、ムダな「二重行政」ではありません。
すでに大阪市議会と住民投票で否決された、「統合」関連議案の再提出は許されません。府大・市大「統合」計画は撤回し、大学自治を尊重した大学改革が求められます。
大阪市立幼稚園の廃園・民営化
橋下市長は市立幼稚園14園を廃園・民営化する議案を2013年に続いて2014年5月議会に提案しましたが、市民世論と幼稚園関係者の運動が広がるなか、日本共産党、自民党、公明党、民主系会派の反対多数で2度否決しました。
同様の議案(7園廃園・民営化)が10月の市議会で否決。公立幼稚園が幼児教育で果たしている重要な役割を踏まえて存続が必要です。
(2)「国旗・国歌」の強制、侵略戦争美化の教科書採択
第二に、憲法違反の「国旗・国歌」強制条例を強行し、侵略戦争美化の教科書を採択したことです。
「国旗・国歌」強制条例を強行し“口元チェック”
「国旗・国歌法」制定時(1999年)、国民と学校に強制はしないとされたにもかかわらず、橋下・「維新」は2011年6月、「国旗・国歌」強制条例を強行。橋下知事(当時)肝いりの民間人校長は、卒業式で教職員が「君が代」を斉唱しているかどうかを“口元チェック”しました。作家の赤川次郎氏は、「生徒のためのものであるはずの卒業式で、管理職が教師の口元を監視する。何と醜悪な光景だろう」(「朝日」2012年4月14日付)と痛烈に批判しました。
子どもと教職員、保護者の内心の自由を侵害する、憲法違反の「国旗・国歌」強制条例を廃止し、卒業式・入学式を子どもにとって最善のものにすることが大切です。
高校教科書選定への露骨な介入
大阪府は2013年7月、特定教科書(高校日本史)の「国旗・国歌」強制問題に関する記述が「一面的」だと教育に介入しました。教育委員からも「教育が政治的圧力や干渉を受けてはならない」と批判の声が上がりました。高校関係者の取り組みにより、2013年に続いて14年、15年も学校が選定した日本史教科書が採択されています。
侵略戦争を美化する教科書を採択
大阪市は2015年8月、侵略戦争を肯定・美化し、改憲に誘導する中学校社会科歴史・公民教科書(育鵬社版)を採択しました。憲法と子どもの権利条約の立場から許されません。学校関係者は侵略戦争美化の教科書採択に抗議。大阪市は補助教材として別の教科書を使用する異例の方針を決めました。
教科書は教育についての専門性をもつ教員が調査・研究し、保護者の意見も聞き、選定・採択されることが大切です。
(3)子どもと教職員、学校への管理・統制
第三に、子どもと教職員、学校への管理・統制の強化です。
校長公募制の破たん
橋下市長肝いりの施策としての校長公募制。この制度の初年度、2013年4月に採用された公募校長11人のうち6人が不祥事をおこしました。これまでに6人が辞職(懲戒免職1人含む)。ある公募校長(当時)が「修学旅行の川下りで生徒を川に突き落とした」とされるなど、深刻な実態が明らかになり、市民の批判が集中しました。
校長が教育の専門家として学校教育で重要な役割を担っていることを踏まえ、校長公募制は抜本的に見直すことが必要です。
パワハラ教育長の辞職
松井一郎府知事が“口元チェック”の元民間人校長を府教育長に任命しましたが、同教育長は府教育委員や府教委事務局職員へのパワハラ問題を連続しておこし2015年3月、辞職に追い込まれました。松井知事の任命責任が問われた重大問題です。
この問題の根本に政治権力による教育への介入があります。首長が教育に介入できる「教育基本条例」を廃止し、首長から独立した行政機関としての教育委員会の民主的改革が求められます。
校内人事問題に介入
大阪府と市は、公立学校の校内人事問題に介入しました。憲法が保障する学校の自治、自主性を侵害するものです。教務主任や学年主任などを選ぶ校内人事(校務分掌)は、教職員が意見を述べ意思表示し、校長の責任と権限のもと学校が自主的に行うべきです。
憲法と子どもの権利条約にもとづく教育改革へ
こうした最も野蛮な手法で、民主主義と教育を破壊する暴政を進め、それが破たんしつつあるのが「維新政治」の8年間です。これに対する府民・市民とオール教育関係者の運動が展開されました。一つひとつの取り組みが大阪の子どもと教育を守り、支えています。
この間、日本共産党は府民・市民と共同して「維新政治」と正面から対決し、教育改革提言(2014年4月)や高校改革提言(同年10月)などを発表してきました。
そのなかでは、①少人数学級・35人学級はじめ教育諸条件の整備・拡充、②「いじめ」・「体罰」問題の解決、③教育のすべての段階での教育費負担の軽減・無償化、④すべての子どもに基礎的な学力を保障する、⑤教育の自由を取り戻し、学校の自主性を尊重することなどを提案しています。
私たちは、府知事選・大阪市長選勝利で「維新政治」に終止符を打ち、憲法と子どもの権利条約にもとづき、ひとり一人の子どもの成長を大切にする教育改革にむけ力を尽くします。
(こばやしひろかず・日本共産党大阪府委員会文教委員会責任者)
(「大阪民主新報」2015年10月18日付)