政策・提言・声明

2010年02月12日

橋下「大学改革」で府立大学はどうなるのか ――学問の自由と大学の自治を尊重した議論を

2010年02月12日
小林裕和

 大阪府は2月府議会にむけて、「大学改革指針案」を作成しようとしています。これは、大阪府の「府立大学のあり方」文書(2009年9月)を受けて、大学が府に提出し府戦略本部会議で検討された「大学改革案」(同年12月)の方向を基本にするというものです。
 「大学改革案」は、①現行7学部(工学部、生命環境科学部、理学部、経済学部、人間社会学部、看護学部、総合リハビリテーション学部)を4学域(現代システム科学域、工学域、生命環境科学域、地域保健学域)体制に移行し理系を強化すること、②教員数10%、職員数25%を削減し、府の運営費交付金を90億円(08年度約108億円)に縮減すること、③学生納付金の見直しなど受益者負担の適正化を図ることなどを示しています。
 「大学改革案」提出を前後して、府立大学の関係者、卒業生・同窓会、地元関係者から、さまざまな意見・要望などが公表されています。
 これらを踏まえて、いくつかの問題提起を行います。

「大学改革」についての大学関係者の相次ぐ声明・意見

 大阪府の「府立大学のあり方」文書と府立大学の「大学改革案」にたいして、府立大学の大学関係者が「反対」や「遺憾」の声明、問題点を整理した意見書を公表しています。
 府立大学経済学部は「大学改革案」について、「教育内容等の本質的議論がなされないまま作られたものであり、経済学部として同意できるものではない」、「この改革案は、府民、学生の利益を害する可能性が高いものであるとして反対」の緊急声明を、教員一同・学部長名で公表しました(09年11月26日)。
 同理学部・理学系研究科は、「大学改革案は、(09年)10月19日に大学改革のための全学プロジェクトチームの発足後、わずか1ヶ月半で奥野理事長・学長から提示されたものであり、その策定が拙速であることに遺憾の意を表する」と学部長・研究科長名で声明文を発表しています(同年12月4日)。
 同人間社会学部は、大阪府による「府立大学のあり方」文書にたいして、「大学の根幹を揺るがす批判的な問題提起が行われたことは、大阪府立大学の教職員、学生にとって驚くべき事態であった」と述べ、「大学改革のビジョンは、大阪府立大学の目指す改革のビジョンとして受け入れがたいもの」であり、「提起された論点および展開された議論の無効性を明らかにする」として、問題点を整理した意見書を学部長名で公表しました(10年1月7日)。
 こうした府立大学の大学関係者による声明や意見書を読めば、今回の「大学改革」の内容や進め方には道理がないことが分かります。

橋下「大学改革」の問題点は何か

 橋下府政による府立大学の「大学改革」の内容や進め方には、三つの大きな問題点があります。

学費無償化の流れに逆行する受益者負担主義

 第一に、学費問題です。
 学費無償化は、世界の流れです。このなかで新政権は、国際人権規約における高等教育(大学教育)の段階的な無償化条項について、「留保撤回を具体的な目標」とすると表明しました(鳩山首相の施政方針演説、1月29日)。
 すでに、高校授業料については、10年度政府予算案で公立高校の無償化、私立高校は就学支援金を支給するとされ、大阪府は国の制度と合算して私立高校の一部(年収350万円以下の世帯、55万円を上限)で実質無償化する方針です。
 これは、府民が政治を一歩前に動かしたものです。今後さらに、学費無償化を私立高校全体と大学に拡大することが求められます。
 橋下府政が、旧来の受益者負担主義による“学費の見直し”を提起していることは、こうした流れに逆行するものです。

短期的な効率主義の大学への持ち込み

 第二に、大学予算(運営費交付金)削減の問題です。
 大阪府は、05年の三大学統廃合・法人化以降、府立大学の教員数を10%(86人)、職員数を24%(71人)削減し、運営費交付金を24%(約35億円)削減してきました(04~08年度)。橋下府政は、こうした教職員、運営費交付金の削減を「改革の成果」と評価し、さらに削減しようとしています。
 大学予算の削減は、府立大学での教育研究条件を悪化させ、教育研究の発展を阻害します。
 この問題は大学関係者をはじめ、地元の経済団体からも批判の声が上がっています。
 阪南7商工会議所(堺、高石、泉大津、和泉、岸和田、貝塚、泉佐野)は、橋下知事にたいして「府立大学のあり方についての意見・要望書」を二度提出したなかで、大学の役割は「“経済的合理性”や“費用対効果”といった物差しだけで判断できない事柄」(09年6月16日)であり「運営費交付金の削減が前提にあるような改革は進めるべきではない」(同12月1日)と述べました。
 大学予算は、短期的な効率のみを追い求めるのではなく、中・長期的な視野から充実することが必要です。短期的な効率主義、成果主義の大学への持ち込みをやめ、大学予算(運営費交付金)を拡充することが求められます。

橋下府政の大学への強権的な介入

 第三に、「大学改革」の進め方について、学問の自由と大学の自治からみてどうかという問題です。
 憲法23条は「学問の自由は、これを保障する」とうたい、大学の「自治は、学問の自由が機関という形態をとったものであり、高等教育の教育職員と教育機関に委ねられた機能を適切に遂行することを保障するための必須条件」(国連教育科学文化機関(ユネスコ)「高等教育の教育職員の地位に関する勧告」97年11月11日総会)です。
 学問の自由と大学の自治を尊重するということは憲法原理であり世界の流れです。
 大阪府大学教職員組合は、「今回の『改革案』提出が、橋下知事の指示によるものであり、公立大学法人となった大阪府立大学の自主性・自律性を侵害するものである」(09年12月8日)と批判しています。
 昨年9月、大阪府が「府立大学のあり方」文書を事実上、大学に押し付け、大学がきわめて短期間のうちに学内議論が不十分な中で、同年12月に「大学改革案」を府へ提出するに至った経過に見られるように、今回の「大学改革」は、府立大学が自主的・自発的に提起したものではなく、「橋下徹知事に存廃を含めた抜本的改革を迫られた」(「朝日」09年11月17日付)ものであることは明らかです。
 橋下府政は、憲法に保障された学問の自由と大学の自治を尊重し、府立大学への強権的な介入をやめるべきです。

府立大学の大学政策の方向について

 こうした橋下「大学改革」の問題点を踏まえ、私たちは、府立大学の大学政策の重点方向について次の三点を提起します。

学費負担の軽減・無償化をはかる

 第一に、世界の流れである学費負担の軽減・無償化を図ること。学費無償化を大学に拡大することが大切です。学費減免の拡充や給付制の創設をはじめとする奨学金制度の拡充が求められます。

大学予算を増やし教育研究条件を拡充

 第二に、府立大学の基盤的経費である大学予算(運営費交付金)を増やし、大学の教育研究条件を抜本的に拡充することが必要です。

学問の自由と大学の自治を尊重する

 第三に、憲法に保障された学問の自由と大学の自治を尊重することが大切です。大学改革は大学での民主的議論と合意で行われるべきであり、大阪府と大学は府民意見を真剣に聞くこと。大学法人制度の抜本的な見直しが求められます。

大阪府立大学の発展のために

 大阪府立大学は、49年に府立浪速大学(55年に府立大学)・大阪女子大学として開学以来、多くの卒業生を社会に送り出してきました。
 地元からも府立大学は「国内、特に西日本で冠たる歴史と実績を持ち、ものづくり地域に立地し、地元との絆と貢献度の大きい」(前出の阪南7商工会議所「意見・要望書」)大学だと評価されています。
 府立大学の今後のいっそうの発展が期待されます。
 日本共産党は、府民・大学関係者と共同して、府民と大学関係者の要求実現、とりわけ学費軽減・無償化と教育研究条件の拡充、大学を守る運動の発展のために力を尽くします。

(こばやし・ひろかず 日本共産党大阪府委員会常任委員・学術文化委員会責任者)

(「大阪民主新報」2010年2月14日付)

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