橋下「教育改革」で大阪の子どもと教育はどうなるのか
憲法と子どもの権利条約を生かし、 すべての子どもの成長・発達を中心にした教育に
2009年02月08日
小林 裕和
いま大阪の子どもたちは、 歴代の自民党政治による過度の競争的な教育制度の下に、 また、 貧困と格差の広がり、 教育条件の悪化の中で、 人間として成長する権利が脅かされています。 この中で、 子どもの健やかな成長を願う府民と保護者の教育への要求は切実です。 日々子どもたちと向き合う学校では真剣な教育実践が積み重ねられています。
いま何よりも求められるのは、 子どもたちの成長・発達を中心にすえた教育を、 憲法と教育の条理に立脚して、 また、 子どもの権利条約などの国際的な取り決めに基づいて、 進めることです。 ところが、 改悪された教育基本法に沿った教育への国家介入の強化や競争教育のいっそうの押し付けが具体化されようとしています。 大阪では橋下 「教育改革」 として、 全国的にも突出した形で、 異常な施策が進められようとしています。
これに対して、 教育関係者をはじめとする批判、 府民的討論が行われています。 教育問題について関係者の間での、 また府民的な討論と共同が大切です。
全国いっせい学力テストに関連して、 橋下知事の暴言が伝えられています。 教育問題での議論の前提として、 教育と暴言は相いれないこと、 暴言は発言者である知事の資質が問われることを指摘しなければなりません。
私たちは、 子どもの成長・発達を願う府民と手を携え、 教育のゆがみを正し、 すべての子どもが、 安心して豊かに成長できる社会を築くために力を尽くします。
子どもたちの学力と学校の役割
教育内容や学力のことは学校を基本に
すべての子どもたちに基礎的な学力を保障することは府民・保護者の願いです。 これは、 学校教育の基本的な仕事です。 自然や社会の仕組みが分かる知育、 体育、 情操教育などバランスのとれた教育が大切です。
こうした教育の内容、 学力の問題は、 地域の子どもの実情に応じて、 その学校で議論され教育課程などにまとめられていくべきものです。 学習指導要領は国民参加で再検討を行い、 こと細かく教育の内容を縛らず大綱的なものとし、 憲法が保障する教育の自由・自主性を尊重すべきです。
「『大阪の教育力』 向上プラン」 と 「緊急対策」
ところが、 大阪府と教育委員会が示した 「『大阪の教育力』 向上プラン」 (素案) や 「緊急対策」 を見ると、 教育内容や教育方法に対して全面的に介入するものになっています。
全国いっせい学力テストの 「無回答率 『0』 の実現をめざす」 や、 家庭学習の時間が30分より少ない子どもの割合について 「宿題等を活用し0%をめざす」 など、 こと細かく数値目標を示して学校に押し付けようとしています。 さらに 「緊急対策」 では 「『PISA型学力』 で日本一をめざす」 や 「反復学習メソッド (方法) を活用した取組みの推進」 というように、 特定の学力論、 教育方法を 「徹底する」 とまで述べています。
学力向上のために、 これまでもさまざまな教育方法に基づく教育実践が行われてきましたが、 知事の教育観に基づく 「緊急対策」 のように、 特定の教育方法を持ち上げて学校に押し付けることをやれば、 教育をゆがめます。
教育行政には、 さまざまな教育方法による教職員の教育実践を励まし、 職場での自主的な教育研究活動を支援することこそが求められます。 子どもの成長・発達と学力向上を結び付けることが大切です。
「プラン」 や 「緊急対策」 は抜本的に見直すべきです。
全国いっせい学力テストをめぐって
競争あおる知事の異常な態度
「ルール違反」 の結果公表
2008年4月に2回目の全国いっせい学力テストが実施されました。 小学校6年生と中学校3年生全員が対象のテストです。 その結果 (都道府県別の平均正答率) が8月末に国により発表され、 橋下知事がこの10月、 全国で初めて学力テストの市町村別のデータ開示に踏み切りました。 きっかけは大阪府の平均点が2年連続で全国平均を下回ったことです。 橋下知事は 「このざまは何だ」 と教育委員会に罵声を浴びせ、 9月には 「教育非常事態宣言」 を出し、 学校教育へ介入する姿勢をあらわにしました。
橋下知事は 「非公表なら予算をつけぬ」 と市町村教育委員会を脅かし、 結果公表を迫りました。 その一方で、 「予算査定のなかで使いたい」 と言って府教委にテスト結果を提出させ、 一部の市町村を除いて勝手に公表してしまったのです。 これには文部科学大臣も 「全くのルール違反」 と言わざるを得ませんでした (11月19日の衆院文科委で、 日本共産党の石井郁子議員の質問に対して)。 市町村別や学校別の結果公表は、 全国の9割以上の教育委員会も反対しています (文科省調査)。 結果公表は、 学校の序列化や過度の競争につながるものです。 公表すべきではありません。
全国いっせい学力テストは廃止しかない
私たちが繰り返し指摘してきたように、 全国いっせい学力テストを行えば、 順位を競い、 テストの点数を上げるための競争の教育に拍車がかかることは必然です。 学力テストは教育をゆがめます。 全国いっせい学力テ ストは1960年代に実施されましたが、 教育関係者と国民的な批判を前に廃止されました。
過度の競争は、 子どもたちから、 じっくり考え、 学ぶ楽しみを奪います。 全国いっせい学力テストは廃止以外に道はありません。 学力の全国的な調査は、 抽出によるもので十分です。
大阪府政のやるべき仕事は何か――教育諸条件の整備・確立
教育内容・方法への介入をしない
憲法が保障する教育の自由・自主性を尊重する
府政のやるべき仕事はどういうことでしょうか。 憲法の立場からみれば、 教育行政は教育に対する権力的介入は可能な限り抑制的でなければならず、 国や府の行う教育施策は教育条件整備に限定し、 教育内容・方法に介入したり、 教育の自由・自主性を侵してはなりません。
教育諸条件の整備・確立、 教育費保護者負担の軽減をすすめる
いま大阪府と教育委員会がやるべき教育条件整備の仕事は、 教育予算を増やし、 少人数学級、 私学助成 (経常費助成と授業料軽減助成)、 就学援助、 府立高校授業料減免の拡充、 養護学校 (支援学校) の増設、 学校耐震化の推進など山積しています。
また、 必要な条件整備を行い高校への入学希望者全員の受け入れを目指すことや、 大学の教育・研究条件改善のため府立大学運営費交付金の削減をやめること、 府議会で請願が全会一致採択された 「府立国際児童文学館の存続」 など社会教育・文化・スポーツ施設の整備・拡充を行うことなどが求められます。
これらは、 府民と保護者、 関係者の切実な要求ばかりであり、 その実現が急がれるものです。
▼少人数学級を全学年に広げる
大阪での少人数学級 (35人以下学級) は小学校1・2年生まで実施されています。 橋下知事はこれをやめようとしましたが、 PTAや校長会をはじめとする教育関係者の運動を前に継続されることになりました。 大きな運動の成果です。
少人数学級の教育効果はすでに語られているところです。 小学校と中学校の全学年に段階的に広げ、 高校へ広げることが求められます。 同時に、 全国的に少人数学級が実施されているいま、 国の施策として30人以下学級の実現が急務です。
▼私学助成削減を中止し拡充する
私学助成が、 大きな問題です。 橋下知事が打ち出した私学助成削減のために、 大阪の私立高校94校のうち50校が来年度 (2009年度) に授業料などを平均4万9900円値上げすることが明らかになりました (大阪私立中学校高等学校連合会の調査)。 私学助成削減は、 学校運営に支出される経常費助成は高校で10%削減などと大幅なもので、 保護者に支給される授業料軽減助成も減額される予定です。 「大阪府民の生活を直撃」 「保護者にとっては二重の負担増」 と報道され、 子どもと保護者から悲鳴が上がっています。
大阪の教育の中で、 私学教育の果たしてきた公教育としての役割を踏まえ、 保護者負担の軽減のため、 私学助成の削減を中止し、 拡充することが切実に求められます。
府民的討論と共同、 運動のよびかけ
橋下 「教育改革」 は、 全国いっせい学力テスト結果公表を機に、 学力テストの順位を上げるための異常な施策を、 教育への権力的な介入のよって押し付けようとするものです。 これらは、 子どもたちの現状や府民と保護者、 教育関係者の要求からのものではなく、 府民との矛盾を深めるものです。
日本共産党は、 橋下 「教育改革」 による教育への介入を許さず、 何よりも子どもたちの成長・発達を中心にした教育を進めるために、 力を尽くします。 大阪の子どもと教育のために、 府民的討論と共同、 運動を呼び掛けます。
こばやし・ひろかず
日本共産党大阪府委員会常任委員