「福祉が市民の自律意識を低下させ、都市・市民の活力喪失につながる」と市民サービスぶったぎり計画
特集「大阪市政改革」問題
大阪民主新報 2005年5月11日・18日付
3~4月にかけて、一連の職員厚遇是正の措置がとられつつある中で、関市長は4月1日に大阪市政改革本部を発足させ、「市政改革を積極的に推進するため」に、局長級の「市政改革担当理事」や「市政改革担当部長」を置くなどして市政改革部門を新たに設置するとともに、5月には民間から幹部を迎えて本格的に市政改革本部を動かそうとしています。市民からは引き続き、職員厚遇を引き起こした大阪市政を改革することを求める強い声が上げられている中で、関市長が市政をどのような方向に「改革」しようしているのか、「改革」の中身を引き続き監視していくことが求められます。
関市長が今後すすめるべき市政改革の理念だと言明し続けているのは、昨年12月に発表された大阪市都市経営諮問会議(座長、本間正明大阪大学大学院教授)の「関市長への提言」(以下「提言」)です。
関市長は、本間座長と確執を引き起こし、結局、座長を解任し諮問会議を解散しましたが、諮問会議の解散にあたっては、あらためて「提言」通りの市政改革を断行することなどを誓約しました。
そこで、関市長が市政改革の理念に掲げる「提言」とは、どんな市政改革を目指しているのか、あらためて見ておくことにしました。
結論から言えば、その内容は、カラ残業や職員厚遇問題を一定程度是正する一方で、財政収支不足を理由に、「市民サービス」や福祉施策を一気に切り捨てたり、都市再生と称して、一部の大企業に産業政策を集中したり、大型開発を継続したりすることを、「今後進めるべき市政改革だ」とするものです。
また、相次ぐ三セク事業破たんの穴埋めにたいする税金投入や、不公正乱脈な同和行政を見直しには、まったく言及していないのも、「提言」の特徴です。
以下、具体的に「提言」の狙いを見て見ましょう。
「福祉が市民の自律意識を低下」と敬老パス、ゴミ有料化など市民サービス切捨て
市長が「有意義」とその具体化をすすめる都市経営諮問会議の「提言」の第1の特徴は、「これら(社会的弱者の増加)に対応するために行政主導でおこなってきた福祉施策が、市民の自律意識を低下させ、さらなる都市・人の活力の喪失につながるという悪循環をもたらした」と、これまでにない福祉切捨ての方向を打ち出してきていることです。
この、都市経営諮問会議の「提言」と平行して出された財政局の「大阪市財政構造の改革に向けて~具体的な取り組み内容とその工程~」では、この「提言」の線に沿って、市民サービスの総切捨てのメニュー(表1,2)を示しています。
それは、市民生活に直接かかわる主なものだけでも、家庭ごみ収集における粗大ごみ収集の有料化、保育料の値上げ、生活保護世帯にたいする夏期・歳末見舞金、上下水道料金福祉措置、市営交通料金等福祉措置、高校生奨学費の廃止。
また、市民の強い批判で来年度実施を見送った敬老優待乗車証の改悪、新婚世帯向け家賃補助の削減、児童いきいき放課後事業への保護者負担の導入、幼稚園就園奨励費の削減、小児ぜん息等医療費助成への自己負担導入、重度障害者給付金・難病見舞金の廃止・削減、小中学校の統廃合など、福祉施策のカットだけでも11項目278億円にものぼります。まさに市民生活への総攻撃です。
早速、小児ぜん息等医療費助成への自己負担導入や、生活保護世帯にたいする夏冬見舞金の廃止が、来年度予算で具体化され、新築住宅の都市計画税2分の1減税が廃止されて、市民の大きな怒りをかっています。
「公平・平等の行政の常識的発想を転換」と、中小企業切捨て、産業政策の重点を一部大企業に
「提言」の第2の特徴は、「公平・平等の行政の常識的発想を転換し、重点的な産業政策への転換を図るべき」と、市内企業全体を「公平・平等」に支援するという、行政として当たり前の発想とは決別して、一部の「強い」大企業を支援する産業政策の大転換を打ち出していることです。そして、「平成17年度には以下の具体策を実現」として打ち出した企業誘致助成金の数十億円規模への拡充は、さっそくそのまま具体化され、情報家電やロボット、バイオなど重点産業分野の大企業誘致には、1社最高30億円もの助成を計上しています。大阪府と合わせると、実に1社60億円もの巨額な助成です。
一方、事業所数の99%、従業員数では74%を占めている市内23万もの中小企業が実際に使える予算は、融資を除けば23億円、1事業所当たり1万円に過ぎず、あまりにも一部大企業に偏した予算措置です。
しかも、それだけの投資をして、仮に誘致に成功したとしても、大阪の中小企業や雇用への波及効果は、はなはだ不確実なものです。大阪市は三重県のシャープ液晶家電工場誘致などの例を挙げて、その効果を強調していますが、かつての家電製品とは違って、液晶テレビなどのハイテク家電の場合は、高度な独自技術が漏洩しないように、部品から組み立てまでの一貫工場となっているのです。そして、そこに派遣会社から労働者を派遣させて生産するというやり方です。
ですから、大阪市内の中小企業の仕事が増えるという効果もほとんどなく、また、雇用も派遣などの不安定雇用が中心で正社員の増加は極めて少数です。
なにより、中小企業に幾分かの仕事を発注したとしても、それが大阪市内の企業である保証はなにもありません。
結局、史上最高の利益をあげているハイテク家電メーカーに、利益をさらに積み増ししてやるだけの結果となることが、懸念されます。
本当に大阪経済と雇用のことを考えるのなら、「大企業を呼び込めばなんとかなる」という、呼び込み型の発想ではなく、市内中小企業や雇用の実態をよく分析・研究して、中小企業の活性化と雇用の拡大につながる一番効果的な産業振興策を取るべきです。中小企業の技術力、営業力の強化や販路の拡大、その拠点としてのものづくり支援センターの市内各地への設置が必要です。
また、「提言」のような福祉切り捨て路線ではなく、介護・福祉をソフト・ハード両面から充実することは、雇用の拡大や中小企業の仕事おこしにも、一番の効果が期待できるのです。
三セク支援、大型開発・同和行政のムダにはメス入れず温存
「提言」の第3の特徴は、市民の暮らし・福祉切り捨て、中小企業に冷たい「改革」の一方で、第三セクター会社の処理への税金投入や、ムダな大規模開発・同和行政には、なんらメスを入れていないことです。そして、実際に、大阪市はかつてない財政危機のもとでも、大阪ドームを100億円とも200億円ともいわれる金額で買い取ることや、クリスタ長堀の会社再建のために、新たに15億円出資し、地下駐車場を47億円で買い取ることなど、さらなる公金投入を計画しています。
夢洲の街づくりの見通しがまったくないにもかかわらず、土地造成に10億円、夢洲トンネルに37億円、将来ともに必要性のない夢洲への地下鉄建設に65億円が、来年度予算に計上されています。建設の必要ない関空第2期工事にたいする23億7千万円の出資・貸し付けも計上されています。また、130億円以上もの同和事業が人権施策や一般施策の名で継続されています。これほどのムダづかいはありません。
2002年に同和の特別措置法が終結しているにもかかわらず、大阪市は、一民間病院である芦原病院へは05年度予算でも、8億円近くの補助金をつぎ込み、貸付金130億円についても返済を求めていません。
12カ所ある青少年会館へは、いまだに213名もの職員を配置し、また人権文化センター(旧解放会館)には、139名もの職員配置や職員出向をおこない、加えて「人権協会」に多数の職員を配置しており、これらの職員配置「厚遇」はほとんど是正されていません。
さらに、市内全体で107カ所、約6万6千平方㍍もの膨大な同和未利用地が残されています。
「提言」は、これらの「同和厚遇」に一言も触れていません。
真の改革の方向はどこにあるか
開発、議会、職員厚遇のムダ削って、市民のくらし守る真の大阪市政改革を
このように、都市経営諮問会議や現市長がすすめようとしている「改革」なるものは、市民の立場に立てば、決して「改革」という名に値しないものであるとともに、財政危機をさらに悪化させ、市民生活と中小企業の活力を奪う最悪のものです。
大阪市は全国最多のホームレスをかかえ、生活保護世帯も、介護保険の低所得者の比率も政令市で最高です。それだけに、今、市民は、毎日のしんどさと、明日の暮らしの心配に追われ、福祉を守り抜くという自治体本来の役割を果たしてほしいと、大阪市にたいして切実に願っています。
真の市政改革の道は、「提言」が述べているように、「社会的弱者への福祉が自律意識を低下させた」と、福祉を切り捨て、一部の「勝ち組」に資源を集中することでは決してありません。それとは反対に、市民の願いにこたえ、自治体本来の任務である、暮らし、福祉、教育、産業の振興にその役割を果たすこと。そのために、歴代市長と議会の「オール与党」、市労連のゆ着の産物である職員厚遇問題にメスを入れることとともに、財政危機の今こそ、大型開発と三セクへの公費投入や同和のムダ、不必要な費用弁償や議員や元議員にたいするバス・地下鉄の無料パスなどの議会のムダを、徹底して見直すこと。ここにこそ、真の大阪市政改革の道があるのではないでしょうか。
日本共産党は、「そのために、市民の皆さんと全力で奮闘する決意です」と語っています。
職員厚遇問題 引き続き市民監視強め実効ある改革を
この間、職員厚遇是正や今後の市政改革をめぐって、いろんな動きが起きています。3月議会の閉会本会議では、福利厚生費や給与のなどの「厚遇分」である166億円が削減された05年度予算が可決される一方で、日本共産党が提案した「職員厚遇を作り出してきた歴代市長らの『責任の所在』を明らかにする」ことを求めた決議案が、自民・民主・公明などの「オール与党」によって否決されました。
「カラ残業」問題では、不認定とされた超過勤務手当の返還がすすむ一方で、関係職員の大量処分が発表されました。4月1日に発表された大平助役を委員長とする職員福利厚生等改革委員会の最終報告は、「最も深刻な問題は、かつて高裁における和解で再発防止を約束したにもかかわらずその後もカラ超勤が行われ、ヤミ年金・退職金制度をずっと温存したことである」として、「過去にさかのぼって原因を明らかにする調査委員会を設置する」ことを関市長に求め、その後、調査委員長に「見張り番」の辻公雄弁護士が採用されました。
さらに住民が起こした監査請求にたいして大阪市監査委員が、職員に支給したスーツは給与に相当するとして、この代金の返還を市長に求める勧告をし、国税当局も、スーツ代等やヤミ年金は実質的な給与だと認定し、源泉徴収税の追徴が必要だという税務調査結果を発表しています。
こうした市自身の動きを監視しつつ、市民運動をいっそう盛り上げていくことが、実効ある「改革」の力として重要です。