大阪府大・市大の「統合」問題について
――府民・市民共同を広げ、両大学の存続・発展を
2018年4月9日 日本共産党大阪府委員会学術文化委員会
大阪市議会は2月23日の本会議で、昨年の議会から継続審議とされてきた大阪府立大学と大阪市立大学を運営する法人を統合する関連議案を、維新の会などの賛成多数で可決しました。日本共産党は反対しました。同趣旨の議案は昨年11月の府議会で可決されており、維新府・市政は来年4月に法人統合、2022年4月に大学統合をめざす方針です。
大学統合関連議案の提出は20年2月議会とされています。その前年には政治戦があり、府民・市民世論と運動で維新政治を転換し、大学「統合」計画を中止させることは十分可能です。
府大と市大は、住民要求に応えた大学教育を行い、多くの卒業生を社会に送り出すとともに、日本と大阪の学術の進歩に貢献し、文化・経済の発展に寄与してきました。両大学の教育研究への府民・市民の期待は大きく、今後の大学のあり方が問われています。
私たちは、府大・市大の「統合」問題について、あらためて問題点を示すとともに、今後の大学改革の基本方向を提案し、府民的討論と共同を呼びかけます。
1 府大・市大「統合」問題の経過と論戦について
(1)「統合」問題の経過
11年11月の府知事・大阪市長ダブル選後、維新政治は「大阪都」構想を前提に、13年に「新大学」構想を示しましたが、府民・市民世論と大学関係者の運動により、同年11月の大阪市議会で大学統合関連議案が否決されました。その結果、16年4月開学予定の統合計画は延期されました。さらに、15年5月の大阪市住民投票での否決は、大学統合を含む「大阪都」構想への市民の審判を示すものでした。市議会と住民投票の否決という二重の審判をうけて、「統合」計画は中止すべきでした。
(2)大学関係者の意見と日本共産党の論戦
府大・市大「統合」問題について大学関係者と日本共産党は、節目で声明などを発表しました。
市大の学生は13年3月、「選択と集中の名による改革で、教養教育や基礎研究などの基礎的な学びの条件が保障されるのかどうか、とても不安に思っています」と述べ、拙速な統合をやめることを求める陳情書を大阪市議会に提出。同月26日の市議会財政総務委員会で、日本共産党などの賛成多数で採択されました。
府大・市大の名誉教授ら21氏は13年10月に発表した声明で、橋下徹市長(当時)の大学自治への介入を憂慮し、「大学には独自の建学の精神と伝統があり、専門分野も独自に発展を遂げて」おり、「大学の統合はそれぞれの大学の内発的要求が合致し、財政的保障が十分なされなければ難しい」と述べ、統合計画の拙速な推進を深く憂慮することを表明しました。
大学関係者は昨年7月、「教職員・学生・卒業生などの関係者による民主的な議論がなされることなく」既定方針として推進されているとして、統合問題の現状に強い危惧を表明しました。また同年10月、「行政主導で新大学に関するいくつかの提言と計画が示されてきたが、その議論は混迷し、両大学の将来像については大学内でも、両大学間でもいまだ議論は不十分である」と指摘しました。
両大学の卒業生らでつくる府立大学問題を考える会と市立大学の統合問題を考える会は昨年12月の声明で、「歴史と伝統、豊かな実績をもつ大阪市大と大阪府大は、府市民にとってかけがえのない財産」であるとして、道理のない大学「統合」の中止を求めています。
日本共産党の石川多枝府議は昨年11月2日の府議会教育常任委員会で、「教職員や学生に対する説明や意見聴取は極めて不十分で、学内議論は全く醸成されておらず、拙速な法人統合を進めるべきではない」と指摘。小川陽太大阪市議は2月23日の市議会本会議で、「両大学のかけがえのない歴史と伝統をしっかりと引き継ぎ、両大学がそれぞれに公立総合大学として存続・発展していくための支援を強めることが重要である」と強調しました。
2 府大・市大「統合」計画の問題点について
維新政治が推進する府大・市大「統合」計画は、いくつかの問題点があります。
(1)強権的な大学リストラが狙い
第一に、法人統合に続く大学統合で、大学リストラが狙われているということです。
法人統合は、府知事と大阪市長が任命する1人の理事長に大学運営の強い権限をもたせ、経営の一体化により「選択と集中の視点から」大学リストラを進めることが狙いです。
維新市政は2月、大学統合で学部、学域を集約化し、新キャンパスは「森之宮地域が有力な一つ」だとして、建設費を現大学用地の売却益などであてる方針を明らかにしました。大学統合が、強権的な大学リストラを狙うものであることが浮き彫りになりました。森之宮キャンパス計画は、住民や大学関係者にとって“寝耳に水”です。「一方的に決められてしまうことなど許されない」と怒りの声が上がっています。
こうした統合と移転(切り売り)をセットにした計画について、堺市の竹山修身市長は、「府立大学は地域の町づくり、ものづくりや農業分野での新産業の創造の基盤として、堺市および南大阪にとっても不可欠な存在である。移転はあってはならない」と地元市長としての考えを述べました(3月28日の記者会見)。
(2)両大学への運営費交付金が減額
第二に、大阪府と大阪市の両大学への運営費交付金が維新政治のもと減額されているという問題です。
11年度に比べて16年度(当初予算額)は、府大で6億6300万円、市大で6億4000万円も減額されています。その結果、教職員が大幅に削減され、教員1人あたりの学生数が増え、卒論など学生指導が行き届かず、基礎研究の継続が危ぶまれています。教員が退職すれば、研究が閉ざされると指摘されています。
さらに問題なのは、国が公立大学の運営に要する経費として交付している額(基準財政需要額)に対して、大阪市は市大に3億6700万円上乗せして交付していますが、大阪府は府立大に27億8300万円も差し引いて交付していることです(16年度当初予算額)。大阪市の関係者が「統合のパートナーとして大丈夫か」と不安をもつのは当然です。
大学統合は両大学の内発的な要求が合致するとともに、十分な財政的保障が必要です。
(3)「新大学」構想についての問題
第三に、「新大学」構想についての問題です。
「新大学」構想には、これまでの総合大学としての普遍的な領域(教育、研究、地域貢献)に加えて、「新たな機能」(都市シンクタンク、技術インキュベーション)、「戦略領域」(パブリックヘルス、バイオエンジニアリングなど)が示されています。特定分野の教育研究に「選択と集中」する大学でいいのかが厳しく問われます。こうした大学における教育研究の基本問題は、両大学の議論と合意が必要です。
維新政治はこれまで一貫して、「新大学」構想を強権的に大学に押し付けてきました。あらたな「新大学」構想についても、学外の特別顧問が主導しているとの指摘があります。
(4)憲法が保障する学問の自由・大学の自治を蹂躙
第四に、憲法が保障する学問の自由・大学の自治を蹂躙(じゅうりん)するという問題です。
憲法第23条は「学問の自由は、これを保障する」と定めています。学問の自由を保障するためには大学の自治が必要です。大学の自治は学問の自由が機関という形態をとったものだとされます。
もともと府大・市大「統合」計画は、両大学の内発的な要求から出発しておらず、安倍政権の「大学改革」を先取りして、維新政治が強権的に大学に押し付けたものです。そのため、繰り返し大学関係者から学内議論と合意が不十分であると指摘されてきました。
維新政治は府大・市大「統合」の理由として「二重行政の解消」をあげています。しかし、両大学は独自の建学の精神と伝統をもち、専門分野も独自に発展を遂げており、「二重行政」ではないことは明らかです。大学関係者が16年4月に行った政府交渉で文部科学省の担当者も、府大・市大はそれぞれ設立趣旨があり「二重行政とは認識していない」と述べました。
3 府民・市民の教育研究への願いに応えて
――大学改革の基本方向についての日本共産党の提案
府民・市民の両大学の教育研究への願いに応えて日本共産党は、大学改革の基本方向として次の諸点を提案します。同時に、府民・市民共同を広げ、府大・市大の存続・発展へ力を尽くします。
(1)府大・市大「統合」計画を中止し、大学改革は大学関係者の議論と合意で進める
憲法が保障する学問の自由と大学の自治を蹂躙(じゅうりん)し、大学リストラを狙う府大・市大「統合」計画は中止し、そのうえで今後の大学改革は、府民・市民の意見を聞き、教職員、学生、院生ら大学関係者の議論と合意により進めます。
(2)学費負担の軽減――授業料の段階的引き下げ、給付制奨学金の拡充
「お金を気にせず学びたい」と、高すぎる学費の引き下げへの学生と保護者の願いは切実です。
国際人権規約が定めた高校・大学の段階的無償化条項が、国民世論と運動におされて留保撤回されました。
大学で経済的な心配なく学び、将来に希望をもって研究したい若者の願いを実現するために、学費無償化にむけて、府大・市大の授業料を段階的に引き下げることを提案します。そのため、国に対して公立大学に補助する制度の創設を求めます。授業料免除制度と給付制奨学金の拡充をはかります。
(3)教育研究条件の改善――国基準に上乗せし運営費交付金を増額
両大学の日常的運営に必要な経費である大学運営費交付金を、国基準(基準財政需要額)に上乗せして増額し、大学の教育研究条件の拡充をはかります。
国に対して地方交付税の大学経費を引き上げることや、公立大学への国庫補助制度を確立するなど財政支援を強めることを求めます。
(4)軍学共同に反対、科学・技術の利用は非軍事で
軍学共同研究を進める防衛省の「安全保障技術研究推進制度」に16年度、市大が応募して採択されましたが、大学関係者らの批判を前に、17年度の応募はありませんでした。
大学に対する軍事機関(防衛省や米軍など)からの資金提供や研究協力などの科学・技術の軍事利用は、憲法の平和原則に反し「学問の自由」を脅かすものです。軍学共同に反対し、科学・技術の利用は、非軍事と「公開、自主、民主」の原則でおこないます。
(5)基礎研究を重視し、科学・技術の多面的な発展へ
大学での科学・技術研究は、その多面的・多様な発展をうながす見地から、研究の自由を保障し、長期的視野からつりあいのとれた振興をはかってこそ、社会の進歩に貢献することができます。基礎研究を重視し、科学・技術の調和のとれた発展と府民・市民本位の利用をはかります。