子どもの成長・発達と学力テストについて
2018年11月12日 日本共産党大阪府委員会文教委員会
「子どものすこやかな成長と豊かな学力」を願う府民と保護者の教育への要求は切実です。こうした願いに応える政治の役割は、子どもの成長・発達を保障する教育条件を整備することにあります。
ところが、大阪市の吉村洋文市長は8月2日の会見で教育に介入し、全国学力・学習状況調査(全国学力テスト)結果を、学校予算と教員評価・給与に反映させる方針を明らかにしました。さらに市長は9月14日の市総合教育会議で、全国学力テストに加えて府・市独自の学力テスト結果を反映させるとしました。
この方針に対して、「教育をゆがめる」、「学力調査の乱用」などと批判意見が相次ぎ、教育関係者から「子どもを踏み台にした教員評価でいいのか」という声が上がっています。
維新政治はこれまでに、府・市独自の学力テストを実施し、その結果を子どもの高校入試内申点に反映させてきました。全国的にも異例です。市長方針は、子どもの内申点への反映に加えて、教員と学校評価にも反映させようとするものです。
全国と府・市の学力テスト結果によって子どもや教員、学校を評価するという学力テスト中心の教育政策でいいのかが厳しく問われています。同時に、教育を壊し子どもの成長を妨げる維新政治を転換することが切実に求められます。
私たちは、憲法と子どもの権利条約の立場から、維新政治による学力テストについての方針の問題点を明らかにするとともに、子どもの成長・発達と学力向上にむけた日本共産党の提案を示し、府民的討論と共同をよびかけます。
1 学力テスト中心で教育をゆがめる維新政治
維新政治による学力テストについての方針には、次のような問題点があります。
(1)教育をゆがめ子どもの成長・発達を妨げる
第一に、教育をゆがめ、子どもの成長を妨げるという問題です。
今回、維新市政が教員評価・給与に反映させようとしている府のチャレンジテストは、これまでに、子どもに深刻な影響を与えてきました。
中学3年生対象のチャレンジテストは、テスト結果で学校ごとの内申点の平均が決められます。さらに、5教科(国語、社会、数学、理科、英語)のテスト結果が、それ以外の音楽、美術、保健体育、技術・家庭の4教科の内申点にも反映されます。学校の平均点をあげるために、子どもたちのあいだで、“〇〇君は休んでほしい”などという会話が普通にされるような事態です。
大阪北部地震と台風21号で子どもと保護者、学校が被災し、今年の中学3年生対象のチャレンジテストは二度延期されました。学校関係者が中止を強く要請したにもかかわらず維新府政はテストを強行し、学校現場が混乱しました。
中学1・2年生対象のチャレンジテスト(1月)は、テスト結果が生徒一人ひとりの内申点に反映されます。そのため、学校がつけた内申点が、テスト結果により2年間でのべ3万8千人(2015・16年度)を超える規模で変更させられたことが明らかになりました。昨年は、2学期までの評定が下がる可能性があると不安を感じた生徒が、テスト当日に欠席することもありました。
もともと内申点は、子どもの日常的な学習活動やノート・作品などの提出物、定期テスト結果などを総合的に評価して学校が自主的につけるものです。一回のテストで内申点が決まる(変更させられる)のは異常です。
全国学力テストや府・市独自の学力テストは、子どもに過度の競争教育、“テスト漬け”を強いるとともに、学校の教育課程や行事に影響を与えています。学校が学力テストの点数を上げる競争に巻き込まれ、“学力テスト対策”が子どもに強制されています。これで、一番被害を受けるのは大阪の子どもたちです。
(2)学力調査の目的から逸脱する
第二に、学力調査結果を子どもの内申点と教員評価・給与に反映させることは、学力調査の目的から逸脱し、憲法違反の「禁じ手」となる問題です。
府のチャレンジテストや大阪市の統一テスト(中学3年生対象)は、府・市教育委員会が実施する行政調査としての性格をもちます。行政調査としての学力テストは、その結果を子どもの成績評価(内申点)や教員評価に用いることはできません(1976年5月の最高裁学力テスト問題判決)。教育行政による教育への介入になるからです。
全国学力調査を実施している文部科学省も、その実施要領で「調査結果を直接又は間接に入学者選抜に関して用いることはできない」と指摘しています。学力調査結果を学校と教員評価に反映させることは、学校での子どもへの教育指導の充実や教育施策の改善などに役立てるとされる学力調査の目的から逸脱します。教育の自由・自主性を保障する憲法に反する「禁じ手」です。
(3)政治権力の露骨な教育への支配・介入
第三に、維新政治の学力テストについての方針は、政治権力による教育への介入となる問題です。
全国学力テスト結果などを学校と教員評価に反映させる方針は、大阪市長が会見や総合教育会議で明らかにしました。
行政調査としての性格をもつ学力テストの点数を上げることなどを、学校に教育目標(数値目標)として設定させよと述べること自体が、政治権力による教育への介入(「不当な支配」)です。学校による教育課程編成権を踏みにじるものです。
総合教育会議は、市長と教育委員会という対等な執行機関同士の協議(自由な意見交換)・調整(合意)の場です。そのため、市長が教育施策について持論を教育委員会に述べ、教育行政に圧力をかけて従わせるようなことは、やってはいけません。ところが、吉村市長は市総合教育会議で、教育委員からさまざまな意見が出されたにもかかわらず、チャレンジテスト結果などを教員評価に反映させることについての「確認」を教育委員会に迫りました。
問題の根本には、政治権力の教育への介入に道を開く安倍政権による教育委員会制度の改悪と、先取りして強行された維新の教育基本条例があります。
2 子どもの成長・発達、学力向上にむけて――日本共産党の提案
こうした問題点を踏まえて、日本共産党は子どもの成長・発達、学力向上にむけて、次のような提案を行います。
(1)学テ結果を子どもと教員・学校評価に反映させる方針の撤回
国と府・市独自の学力テストは、行政調査としての性格をもつため、その結果を子どもの内申点や教員・学校評価に反映させることは、調査目的から逸脱します。
学力調査結果を子どもと教員・学校評価に反映させる方針の撤回を強く求めます。教育をゆがめる府・市独自の学力テストを廃止します。子どもの学力形成に有害な全国学力テストの廃止を国に求めます。
学力調査は抽出で行い、結果は教育条件整備などに役立てることが大切です。
(2)子どもの学力向上へ35人学級・少人数学級の拡充
35人学級・少人数学級は、すべての子どもにゆきとどいた教育を行うための必要な教育条件です。子どもの学力向上、学力保障に一番有効な施策です。
ところが、安倍政権と維新府政は、35人学級の実施を小学校1・2年生に抑えてきました。このなかで、府民と学校関係者、日本共産党議員団の論戦と運動により、国基準に上乗せして少人数学級を実施している府内の自治体は、10市以上に増えています。府民の切実な教育要求に応えて、35人学級・少人数学級を小・中学校全学年と高校に広げることが求められます。
子どもの成長・発達へ、教職員が子ども一人ひとりと向き合い、授業準備を行うなどの時間を十分に保障することが大切です。学校をよりよい教育の場にするために、教職員を増やし、異常な長時間労働を是正することが必要です。
(3)教員評価制度の抜本的な見直し
教員評価を給与に反映させる、維新府政の「評価・育成システム」は、学校教育での教員のあいだの協力や連携をこわし、教育をゆがめ、子どもの成長・発達を妨げます。「評価・育成システム」を中止します。
そのうえで、憲法が保障する教育の自由・学校の自主性を尊重し、子どもの成長と教育をよくするために、教員評価制度の抜本的見直しが求められます。
(4)学習指導要領の抜本的な見直し
安倍政権のもと文部科学省は、改悪教育基本法の具体化として、教育内容の基準を示す小学校、中学校、高等学校の学習指導要領と幼稚園の教育要領を改定しました。
新学習指導要領は、「つめこみ」教育や小学校英語の早期化などの問題があります。学習指導要領を抜本的に見直すとともに、学校が子どもの状況や地域の実情に応じた教育課程を自主的につくることを尊重します。
(5)ゆきすぎた競争教育をあらためる
国連・子どもの権利委員会は日本政府に対して、「高度に競争的な教育制度」が子どもにストレスを与え発達に障害をもたらしていることを厳しく指摘し、その改善を求めています。子どもの成長・発達のために、ゆきすぎた競争教育をあらためることが大切です。
維新政治が強行した教育基本条例を廃止します。高校入試制度を抜本的に改善するための専門家・府民の検討の場を設けて改革に着手します。